第二話:夜風と空気 静かな熱を灯して

第二話:夜風と空気 静かな熱を灯して

夜の深まりとともに、ふと窓を開けてみたくなることがあります。

部屋の中にこもった昼の熱を逃がすように、また、気持ちの整理がつかないときなど、何かを静かに流し去ってくれるのではないかというような、そんな気持ちがどこかにあるのかもしれません。

今夜もまた、静かな風が部屋を通り抜けてゆきました。薄手のカーテンがふわりと舞い上がり、ゆっくりと沈む。そんな一瞬のゆらぎに、心がほどけていくのを感じます。

夜風というのは、不思議な存在です。日中に吹く風のように喧しくはなく、涼しさの中にどこか湿り気と温もりを含んでいて、肌にあたるその感触は、まるで人の呼吸のようにも思えるのです。

静けさに包まれながら、私は小さなグラスにラムを注ぎました。今夜選んだのは、カリブの深い海を思わせるようなダークラム。琥珀色の液体が、灯りに照らされてほんのりと輝きます。

ラムというお酒には、どこか陽気な印象があるかもしれません。トロピカルなカクテルの材料として、多くの方が明るい昼のイメージを抱いておられるでしょう。ですがその本質は、夜とよく似ております。

糖蜜由来の濃密な甘みと、長く熟成された木の香り。それは、日が沈んでからようやく自分自身に戻るような、そんな時間にこそふさわしい味わいではないでしょうか。

ひと口、そっと口に含むと、ふくよかな香りが鼻腔をくすぐり、舌の上には黒糖のようなやさしい甘みが広がっていきます。喉を過ぎたあとの温もりは、胸の奥に静かに火を灯すようです。

そしてその熱を、夜風がやさしく冷ましてくれる。その繰り返しが心地よく、グラスを傾けるたびに、外の空気をより身近に感じるようになります。

外に出て、そっと空を見上げてみます。音はほとんど聞こえません。ただ、木々の葉が少し揺れ、どこか遠くで車が通り過ぎる音がわずかに届くのみ。この「ほとんど無音の世界」こそ、夜風の醍醐味なのかもしれません。

夜風には、何かを癒し、そして何かを連れ去る力があるように思います。一日を終えたあとに飲むお酒に、その風が重なるとき、私たちはようやく、ほんとうの意味で「休息」の時間を得るのかもしれません。

ラムは、そんな時間にぴったり寄り添ってくれる酒です。強く主張しないけれど、確かにそこにいて、あなたを温めてくれる。夜風に吹かれながら飲むラムは、昼間には決して気づけない味わいを教えてくれます。

深夜、すっかり冷えたグラスの中で、残った氷が小さく鳴りました。それが合図のように、私もそろそろグラスを置き、灯りを落とすことにいたします。

おやすみなさい。また、夜風が恋しくなったら、きっとこのラムに会いに来ようと思います。

今夜の酒:マイヤーズ・オリジナルダーク

ジャマイカ産の重厚なラム。黒糖やモラセスのような深い甘みと、わずかにスモーキーな後味が特徴です。ロックでゆっくりと飲むことで、夜の時間をより静かに、より豊かにしてくれます。

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