二日酔いとコーヒーの関係

二日酔いとコーヒーの関係

朝の一杯がもたらす穏やかな回復

二日酔いの朝。

台所でコーヒーを淹れているときのあの香り。それだけで、すこし頭が冴えてくるような気がいたします。

体が重く、意識のどこかがまだ「前の晩」に引きずられているようなとき、コーヒーを一口。ほろ苦いその味が、舌から喉へ、そして静かに胃の奥へ落ちていく。それだけで、ほんの少し、日常が戻ってくるような気がするのです。

本日は、「コーヒーが二日酔いに効く」と言われるそのメカニズムについて、ゆっくりと考えてまいります。

コーヒーのカフェインが「血管の拡張」を抑える

まず注目したいのは、頭痛の軽減に対するコーヒーの働きです。

二日酔いによる頭痛の原因のひとつに、「脳の血管が拡張しすぎる」現象があります。アルコールには一時的に血管を拡げる作用があり、それが酔っているときには「ポカポカする」「気持ちよい」という感覚につながるのですが、酔いがさめた翌朝には、その拡張が痛みへと変わることがあるのです。

ここでカフェインが登場します。

カフェインには、血管を収縮させる作用があり、特に脳の血管に対してその効果が顕著とされています。つまり、カフェインを含むコーヒーを飲むことで、過度に拡がっていた血管が適度に締まり、頭痛がやわらぐ。

このプロセスが、二日酔い時に「コーヒーを飲むと楽になる」と感じる大きな理由のひとつです。

利尿作用によって「むくみ」を軽減

アルコールを大量に摂取した翌朝、顔や手足がむくむことがあります。これは、体内の水分バランスが崩れ、一時的に水分をため込みやすくなるためです。

コーヒーに含まれるカフェインには、軽度の利尿作用があります。過剰な水分や、アルコール代謝の際に生まれた老廃物を尿とともに体外に排出しやすくすることで、体のだるさや重さを軽減してくれる可能性があります。

もちろん、脱水症状になってしまっては逆効果ですので、コーヒーを飲む際には、必ず一緒に水も摂ることが大切です。

コーヒーはあくまでも「きっかけ」であり、身体の流れを促すためのスイッチのようなもの。それだけで完全に回復するわけではありませんが、朝の巡りを穏やかに動かしてくれる存在です。

カフェインが「眠気」と「無気力感」を和らげる

二日酔いのもうひとつの厄介な症状は、眠気や集中力の低下です。

これはアルコールの代謝によって生じるアセトアルデヒドが、神経系に影響を与えるためとされます。特に、脳の覚醒系に関与するドーパミンやアセチルコリンの働きが一時的に弱まってしまうことで、「起きているのに、目が覚めない」「考えがまとまらない」といった感覚に陥りやすくなります。

カフェインは、アデノシンという「眠気ホルモン」の働きをブロックすることで、脳を軽く覚醒させる作用があります。その結果、頭が少しずつ回りはじめ、気持ちが「今日」に向かって動き出す。

それが、朝のコーヒーが持つ最大の恩恵かもしれません。

「飲む行為」そのものが、回復の始まり

私自身の体験としても、二日酔いの朝は、無理に食べるよりも、まずコーヒーを丁寧に淹れて、静かに味わうようにしております。

それは、身体を「何かに向かわせる」小さな儀式でもあります。

豆を挽く音、湯を注ぐ香り、湯気の立ち方。それらが五感に心地よく触れながら、少しずつ「今日の自分」へと引き戻してくれるのです。

この時間を経てから、味噌汁ややさしい食事をいただくことで、内臓も無理なく再始動してくれるように思います。

注意点─コーヒーが逆効果になる場合も

ただし、すべての方にとってコーヒーが「万能な特効薬」であるとは限りません。

とくに、胃腸が弱っているときには、カフェインが胃酸を刺激してしまい、気分の悪化につながることもございます。

また、カフェインに敏感な体質の方にとっては、心拍数が上がったり、不安感が増すこともあります。

ですので、「あくまで少量から」「体調を見ながら」がおすすめです。

私自身も、二日酔いが強い朝には、まず白湯を飲み、少し落ち着いてからコーヒーをいただくようにしています。

「静かな一杯」が整える朝

コーヒーは薬ではありません。

けれど、私たちの身体と心に、静かに作用する「整える飲み物」だと感じております。

アルコールの余韻が残る朝に、頭痛や眠気や倦怠感に包まれていたとしても、一杯のコーヒーが、ふっとその霧を晴らしてくれることがあります。

それは、香りや温度や、ほんの少しの苦味が、私たちを今日という日に連れ戻してくれるからなのかもしれません。

お酒を楽しんだ翌朝こそ、ゆっくりと丁寧に、コーヒーを淹れてみる。

それが、また健やかな一日を始めるための小さな習慣となってくれるのではないでしょうか。

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