はじめに
新宿の雑踏を抜け、ふと見つけるビル。

その中の小さな暖簾。

そこが私にとっての「立吉」。
繁華街の喧噪を受け止めるような落ち着いた佇まいの店内は、一歩入ると時間の流れが少しだけゆっくりになります。
仕事帰りの会社員、ひと呼吸つきに来た常連、そして観光客らしき人影も交じる賑わいの中に、いつもと変わらない手さばきと焼きの香りが漂っています。
この日は、串を合計で16本と酢の物、そして日本酒は「四万十川(しまんとがわ)」をお願いしました。串を数えると、自然と酒の杯が進み、それぞれの串が小さな出来事のように記憶に刻まれていきます。
以下、食事の流れと印象、そして写真ごとに短い一文。串の正確な名前は失念してしまったために出さず、味わいの残像を掬い取るよう記事にしました。
店の雰囲気とサービスについて
立吉の良さは、何と言っても焼き場の職人の安定した動きと、カウンター越しの「距離感のちょうど良さ」にあります。

焼き台は客席のすぐ正面に位置しており、炎の揺らぎや串に触れるたびの「ジリッ」という音が、食欲を自然に呼び起こします。
店員さんは威圧的でなく、それでいて的確。提供のタイミングを見計らってくれるので、串が冷めることなく供されるのが嬉しい点です。
日本酒「四万十川」は、しっかりとした米の旨味と程よい香りが特徴で、塩やたれどちらの串にも合わせやすいタイプでした。軽やかな酸味が後口を整え、串の脂と好配合を見せてくれます。
食べた順(概略)と印象
※正確な串名は失念してしまったため、雰囲気と順序の記憶をもとにしています。
突き出し野菜スティックとタレのセット。

ほのかな炙りの香りが、夜の始まりを告げる一本。

軽やかな塩気が素材の甘みをそっと引き立てる一串。

火の通り具合が絶妙で、肉の旨味が柔らかく広がる。

口当たりがしっとり、ほのかな苦味とコクが残る。

歯触りの良さと小気味よい弾力が同居する一品。

ジューシーな脂が口中で溶け、酒を呼ぶ味わい。

甘辛いタレが絡み、ついつい箸が伸びる存在感。

柔らかな白身の甘さが、塩でより素直に際立つ。

焼きの香ばしさとほぐれる身が心地よい余韻を生む。

軽やかな衣の食感が口の中で踊るような一串。

濃厚な旨味がダイレクトに伝わる、酒に合う主張。

豊かな脂の重なりがじんわりと余韻になる一本。

さっぱりした酸味が次の串への導線となる一品。

野菜の甘さがぎゅっと閉じ込められたような穏やかな一本。

満足感をもたらす、野菜の旨みが濃い一本。

小さくとも確かな存在感、余韻を整える一串。

炭火の余韻が最後まで舌に残る、締めくくり、おかわりの一串。

串と酒の相性について
今回の選択は「四万十川」。

しっかりとした米の旨味と、過度にならない香り、穏やかな酸味が特徴の日本酒。
これが串焼きの多様な味わいにとても馴染みます。具体的には:
- 塩焼きの串:素材の甘みや旨味を酒が引き立て、すっきりとした流れで飲めます。
- タレ系の串:甘辛さに酒の旨味が混ざり、タレのしつこさを酒の酸味が爽やかに整えます。
- 脂の強い部位:酒のキレが脂を洗い流し、食後感を軽くしてくれます。
- 野菜の串:酒が持つほのかなコクが、焼かれた野菜の香ばしさを補強します。
串焼きは一口サイズの「料理の変奏曲」。酒の選び方次第で、その曲の表情が大きく変わります。
四万十川は、個人的には「何本でも繰り返し飲めるバランサー」のように感じました。
注文のコツと楽しみ方(私流)
- 最初は軽めの塩系や野菜で胃を立て直す。
- 濃いめは中盤に来るとメリハリが出る。
- 甘辛は酒を一杯増やして楽しむ。
- 途中で一度さっぱり系(柑橘や酢の効いた小鉢)を挟むと長く楽しめる。
- 〆に汁物を頼めば満足感が自然にまとまる。
立吉の串はサイズ感が良いので、このパターンだと飽きずに16本という大ボリュームも程よく食べ切れました。
最後に(行く前に知っておくと良いこと)
- 平日でも混雑します。カウンター席が中心なので、2名以内なら比較的入りやすいことが多いです。
- 炭火の香りが強めに付くため、服や髪に匂いが残るのが気になる方は注意。
- お店の方が季節やその日の良い部位を選んで出してくださいます。素直に従うのが一番です。
長くなりましたが、新宿・立吉での串二十本と四万十川の組み合わせは、焼きの技術と酒の相性が合わさり、印象深い夜となりました