朝の温泉、名残惜しさと、弘法の湯へ
三日目の朝。
障子越しのやわらかな光に気づいて目を開けると、伊豆長岡らしい、湿り気を帯びた澄んだ空気が静かに部屋に流れ込んでおりました。
ここで迎える朝は、なぜこうも落ち着くのでしょうか。温泉地の朝に特有の、あの“時間が伸びる感覚”が、まだ体の内側に漂っております。
朝湯というご褒美
身支度を整え、まだ誰もいない時間帯の貸切風呂へ。

湯面は鏡のように静かで、湯船に足を入れた瞬間にふわりと全身が解けていきます。

伊古奈荘の温泉は、身体の芯にまっすぐ届いてくるような柔らかさがあり、前日の夜よりさらに体が軽いことに気づきました。
湯から上がっても、しばらくぼんやりと椅子に座り、窓の外を眺めます。
この「無為の時間」を宿の中で味わえることこそ、旅の醍醐味であるように思います。
朝食という、旅のしめくくり
朝食会場へ向かうと、素朴で丁寧な膳が並びます。

焼き魚、湯豆腐、小鉢の煮物、炊きたての白米。
昨夜の豪華さとは対照的に、心を整えてくれるような朝ごはんでした。
食卓を囲みながら、妻と「昨夜の献立の“サゴシ幽庵焼き”美味しかったね」と話が弾みます。
(※前夜の献立メニュー:海老塩焼き、胡麻豆腐、茄子インゲン生姜和え、鯛うす造り、穴子柳川、イサキから揚げ、など─どれも実に丁寧な仕立てでした。)
二日目の夕食もまた、宿の心配りが光る品々で、取材という名目でありながら、つい純粋に楽しんでしまう。これもまた、旅の仕事の嬉しいところであります。
名残を惜しむチェックアウト
荷物をまとめ、名残惜しさを胸にフロントへ。

スタッフの方々のあいさつが気持ちよく、去りがたい気持ちがいっそう強まります。
「また来ますね」自然とそんな言葉が口に出ました。
チェックアウト後の寄り道 — 系列店 「弘法の湯」へ —
宿を出てほんの数分。伊古奈荘の系列店である「弘法の湯」へと向かいました。

こちらは一般の日帰り入浴施設でありますが、落ち着いた佇まいと広々とした湯船が気持ちよく、旅の最後に立ち寄るには最適の場所でした。
● 温泉はやわらかく、体にすっと馴染む
大浴場は開放感があり、湯質は伊古奈荘に近い柔らかさ。

朝湯で一度仕上がった身体が、さらに仕上がる感覚とでも言いましょうか。

湯気の中でぼんやりと過ごしながら、「ここも取材として書いておこう」と思えるほど、しみじみと気持ちよい時間でした。

岩盤浴も設けられており、ほどよい温度で長く入れるタイプ。

サウナとは違い、温度がやや控えめのため、肩に力が入らず、ゆったりととのえられます。

旅の締めとしては理想的な組み合わせです。
● 休憩室で一息つきながら
湯上がりに休憩室へ向かい、椅子に腰かけ、しばし休憩。

地元の方がふらりと訪れ、談笑しながら湯を楽しんでいる姿が温かく、この土地の“普段の時間”に触れられたような気がしました。

観光客の時間とは少し違う、地元の日常。こうした空気に触れると、旅はぐっと深まります。
旅の終わりに
伊古奈荘での二泊三日の取材旅は、温泉のやわらかさと、食事のあたたかさ、人の気配が穏やかなこと─そうした“伊豆長岡らしさ”の結晶のような旅でした。
そして、最後に弘法の湯へ寄ることで、旅全体がゆっくりと着地していく感覚がありました。
海や夜の宴会とは違う、静かな旅。家族で過ごすには、このくらいの穏やかさがちょうど良いのかもしれません。
今回の取材記事は、kei3.blog にて3部作としてまとめる予定です。
次の旅の取材へとつながっていく、その一区切りとして、伊豆長岡の湯気と静けさを胸に、車へと戻りました。