はじめに
4月7日、火曜日。栃木取材旅行3日目。
那須塩原の空気は、どこかやわらかく、そして静かでした。
街を少し歩き、余白のある時間を過ごしたあと、チェックインの時間に合わせて宿へ向かいます。
この日の宿は、常盤ホテル。
源泉掛け流しの温泉を楽しめるということで、この旅のひとつの楽しみとして据えていた場所です。
時間を纏った外観と、整えられた内側
到着してまず感じたのは、「派手さのない安心感」でした。
外観はどちらかといえば素朴で、どこか昭和の面影を残すような佇まい。
長く営業を続けてきた宿特有の、時間の重なりがそのまま形になっている印象です。
ただ、一歩中に入ると、その印象は少し変わります。
館内は過去にリニューアルされているようで、清潔感があり、古さをうまく残しながらも、きちんと整えられている。
この「古いか新しいか」ではなく、「ちゃんと手入れされているかどうか」という視点は、宿選びにおいてかなり重要なポイントだと思っています。
静かに、しかし確実に、期待値が上がっていく瞬間でした。
アルコール自販機という安心装置
チェックインの最中、自然と視線が流れた先にあったのは、アルコールの自動販売機。
これがあるかどうかで、滞在の質は地味に変わります。
温泉に入ったあと、「ちょっと飲みたいな」と思ったときに、すぐ手に入る。
このシンプルな動線が確保されているだけで、余計なストレスが一つ消えるわけです。
外に飲みに行く旅もいいですが、宿にこもって飲む時間もまた、別の価値がある。
そういう意味で、この自販機はひとつの“安心装置”のような存在でした。
布団が敷かれた和室という完成形
部屋に入ると、すでに布団が敷かれていました。
最初は少し驚きますが、よく考えると合理的です。
スタッフの出入りもなく、自分たちのペースで過ごせる。
畳の部屋にはしっかりと余白があり、布団があっても窮屈さは感じません。
座ってもいいし、寝転んでもいい。この自由さが、和室の良さです。
妻もすぐに自分のスペースを確保し、荷物を整えながらリラックスしている様子。
こういう何気ない瞬間に、その宿の居心地の良さが現れます。
広縁と日本酒、そして娘の遊び場
この部屋で特に印象に残ったのが、広縁の存在でした。
外の光が柔らかく入り、ただ座っているだけで時間がゆっくり流れるような空間。
ここで飲む一杯は、間違いなくうまいだろうと、すぐに想像がつきます。
実際に日本酒を用意してみると、その予感はさらに強くなる。
ただ、そのタイミングで現れたのが娘。
広縁を気に入ったのか、行ったり来たりしながら自由に遊び始めました。
そして興味は、自然と日本酒の瓶へ。
こういう場面では、止めすぎず、でも目は離さず。
旅先ならではの、少しゆるやかな緊張感があります。
結果的に、この広縁は「飲む場所」でありながら、「家族の時間が流れる場所」でもありました。
源泉掛け流し、静かに効いてくる湯
荷物を落ち着けたあと、すぐに温泉へ向かいます。
娘もなぜかその流れを理解しているのか、自分から廊下を歩いて進んでいく。
その後ろ姿を見ながら、こういう体験が積み重なっていくのだろうな、と少しだけ感傷的になります。
浴場は内風呂のみ。
露天風呂はありませんが、不思議と物足りなさは感じません。
むしろ、「湯に集中できる環境」が整っている。
那須塩原の温泉はアルカリ性単純温泉が多く、肌あたりが柔らかいのが特徴ですが、まさにその通り。
じわじわと体に馴染んでくる感覚があり、気づけば長く浸かってしまう。
結果として、1時間近く入っていました。
長く入ろうと思ったわけではなく、「出る理由がなかった」というのが正確なところです。
このタイプの温泉は、なかなか出会えません。
何もしない時間が、一番贅沢になる
風呂から上がり、部屋に戻る。
夕食までは、あえて何もせず、ゆっくりと過ごす時間にしました。
外に飲みに行くわけでもなく、観光を詰め込むわけでもない。
ただ、畳の上でくつろぎながら、時々飲み、少し話し、また静かになる。
こういう時間は、自分の中のリズムを整えてくれます。
飲み歩きの旅ではありますが、こうして「宿で飲む時間」があることで、全体のバランスが取れる。
外の賑やかさと、内の静けさ。その両方があってこそ、旅は深くなるのだと思います。
さて、このあとの夕食。
そして、この宿のもう一つの顔については、第二部でしっかり書いていきたいと思います。