【湯河原・上野屋】第二部・夕食から就寝まで

はじめに

湯河原・上野屋で迎える、深く静かな夜

夕方の温泉を二度ほど楽しみ、体の芯までしっかり温まったところで、夕食の時間となりました。

この時点で、すでに「今日は良い夜になる」という確信がありました。

温泉宿において、夕食前の過ごし方というのはとても重要で、ここがうまくハマると、その夜全体の印象が決まると言っても過言ではありません。

上野屋の場合、チェックインから夕食までの導線がとても自然で、急かされる感じが一切ない。

だからこそ、夕食の席に着いた瞬間、心がすっと落ち着いた状態になっているのです。

お品書きを眺めるという、贅沢な時間

席に着き、まず目に入るのは、テーブルの上に置かれたお品書き。

淡い緑色の紙に、控えめな文字で並ぶ料理名。

必要以上に説明をしない、この感じがとても良い。

「これから何が出てくるのか」を想像しながら、ゆっくりと文字を追う。

この時間があるかないかで、食事の印象は大きく変わります。

すでに、この時点で「ちゃんとした夕食が始まる」という空気が、静かに整っていました。

刺身が運ばれてきた瞬間

これはもう、勝ちが確定している

そして、運ばれてきたのが、写真のお刺身。

正直に言って、この一皿が出てきた瞬間に、この日の夕食は成功したと感じました。

大きな桶に、美しく、しかし過剰ではない盛り付け。

余白を活かしながら、魚そのものの存在感を前に出す構成。

まぐろの赤、白身の透明感、光り物の艶、甘えびの柔らかな色合い。

どれもが、「今が一番うまい状態」で切られていることが分かります。

一切れ目を口に運ぶと、余計な水分は一切なく、歯に吸い付くような食感。

「新鮮」という言葉では、少し足りない。きちんと“仕事”がされた刺身でした。

温泉宿で、ここまで刺身が主役として成立するのは、実は珍しい。

それだけに、この一皿の満足度は非常に高かったです。

相模灘と、氷入り徳利

酒飲みへの、さりげない理解

刺身に合わせて頼んだ日本酒は、相模灘の純米吟醸・美山錦。

そして、ここで一つ、忘れられない出来事があります。

氷を入れて冷やすことができる徳利を、当たり前のように用意してくださったこと。

これが、実にありがたかった。

日本酒は、一杯目が美味しくても、二杯目、三杯目で温度が上がり、刺身との相性が崩れてしまうことがよくあります。

しかし、この徳利のおかげで、最後まで同じテンションで酒を楽しむことができました。

こういうところに、「この宿は、酒飲みを分かっているな」と感じます。

派手なサービスではない。

でも、確実に心に残る対応でした。

焼物・杉板カマス

静かに、確実に酒を進める一品

次に登場した焼物は、杉板カマス。

杉板に包まれての登場。

中を見ると皮目はしっかりと焼かれ、身はふっくらと仕上がっています。

派手な脂ではなく、噛むほどにじわっと広がる旨味。

こういう魚は、日本酒との相性が抜群です。

相模灘を一口含み、カマスをひと口。

この繰り返しが、実に心地よい。

気がつくと、ボトルの中身が、静かに減っていました。

松茸の土瓶蒸し

香りが、夜を深くする

続いて、松茸の土瓶蒸し。

蓋を開けた瞬間、ふわりと立ち上る香り。

この香りだけで、一日の疲れが、もう半分ほど抜けていくような気がします。

出汁は澄んでいて、松茸の香りを邪魔しない、非常に上品な仕上がり。

一口含むと、口の中いっぱいに、秋が広がる。

これもまた、日本酒が進む。

料理が酒を呼び、酒が料理を引き立てる。

この循環が、とても自然に成立していました。

食後の足湯

夜景と、余韻の時間

デザートを堪能して、大満足の夕食が終了。

食事を終えた後、休憩のため、すぐに部屋へ戻らず足湯へ向かいます。

この選択ができるのが、上野屋の良いところ。

足湯に浸かりながら、夜の景色を眺める。

湯河原の夜は静かで、遠くの灯りが、控えめに瞬いています。

食後の満足感と、酒の心地よい余韻。

この時間があるからこそ、旅は「消費」ではなく、「体験」になります。

夜の温泉へ、再び

源泉掛け流しの静寂

そして、もう一度温泉へ。

夜の温泉は、昼とはまったく別の表情を見せてくれます。

音が少なく、湯の音だけが、静かに響く。

源泉掛け流しの湯に身を沈めながら、何も考えず、ただ呼吸を整える。

この「何も考えない時間」こそ、温泉宿に泊まる最大の価値なのかもしれません。

布団に入る、その前に

静かに一日を振り返る

部屋に戻り、灯りを少し落とす。

布団に入る前、今日一日の流れを、ゆっくりと振り返ります。

仕事を終えて向かった湯河原。

歴史ある建物。

貸切の温泉。

そして、夕食。

どれもが、派手ではない。

しかし、確実に心に残る。

こういう夜があるから、また日常を頑張れるのだと思います。

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