はじめに
岡山洋酒店 — 食卓のための酒と暮らしを選ぶ場所
12月15日、月曜日。

松阪の岡山洋酒店を訪れた目的は、冬の食卓に似合う酒を手にすること。

昭和の空気が残る通りの中で、地域の人たちに長く愛されてきた存在。

外観は落ち着いた佇まいながら、扉を開けると酒瓶が整然と並び、種類の幅は驚くほど広い。

地酒、焼酎、ワイン、ビール、そして海外の酒まで、棚ごとに世界の味が整えられています。
「地元の人が日々の晩酌に使える店」という雰囲気。
「旅人が出会いを求めて立ち寄る場所」という空気も併せ持つ店。
そういった印象を受けました。
酒屋八兵衛とは — 三重・元坂酒造の象徴的ブランド
「酒屋八兵衛」(朔旦・純米大吟醸)

伊勢志摩での牡蠣体験の余韻を胸に、こちらで選んだ酒。
「酒屋八兵衛」は、三重県多気郡大台町の元坂酒造が長年かけて磨き上げてきた代表銘柄。
創業は1805年、日本の伝統的な酒造りを守りながら、現代の食卓にも合うバランスを追求しています。
蔵の基本理念は「グラス一杯の輝きよりも、一晩の安らぎを」。
静かな夜、食事とともに寄り添う日本酒を目指して造られてきました。
今回手にしたのは、「朔旦(さくたん)」と記された純米大吟醸。

「朔旦」は文字どおり「ついたちの朝」を意味し、節目や新しい始まりを祝う気持ちを込めて造られた酒でもあります。
見た目・立ち香 — まずは視覚と嗅覚から
ボトルを手に取ると、まず印象的なのはラベルの落ち着きあるデザイン。
冬の季節、穏やかな時間を過ごすための一杯として、程よい装いを感じさせます。
静かにグラスに注ぐと、酒は透明感のある淡い金色。光を通すと、柔らかな膨らみを帯びて揺らぎます。
そっと鼻先に近づけると、ふわりと立ち上る香りは過度な華やかさを追わず、穏やかな米の甘さと清澄な空気感が同居するような印象です。
香りの主張が強すぎず、静かに寄り添ってくれるタイプで、これは食中酒として有利な方向性です。
味わいの一連 — 口に含んでからの流れ
ひと口すすってみると、まず感じるのは柔らかな甘み。派手さや尖った芳香はなく、米本来の旨味を大切にした味わいがじんわりと広がります。
甘みと酸味は穏やかに調和し、酒単体でも飲み込むまでの時間が心地よい。
そして、後口はすっと引き、料理との距離感をうまく整えてくれる絶妙な余韻が残ります。
この落ち着いた膨らみは、吟醸香に頼らず、素材由来の豊かさを形にした味わい設計といえるでしょう。
食中酒としての機能 — 牡蠣との相性
前段で述べたとおり、この日は的矢かきテラスで牡蠣を食べた後。
生牡蠣、蒸し焼き牡蠣。それぞれの皿をめぐる“塩味”と“旨味”の波長に対して、八兵衛はとても優しい伴奏をしてくれました。
生牡蠣の清冽な旨味に対しては、酒の柔らかな甘みが平坦にならず、ふわりとアクセントとして寄り添います。
蒸し焼き牡蠣の凝縮した旨味には、酒の穏やかな酸が“余韻の支え”として重なるような余白を作ります。
過不足なく・邪魔をせず・記憶に残る—これは典型的な良い日本酒の条件ですが、八兵衛はそれをきちんと体現していました。
酒質の核心 — どこに“味の良さ”があるのか
八兵衛の味わいが心地良いのは、決して「強い味」でもなく、「鮮烈な香り」を追うものでもなく、米の味を丁寧に引き出す設計にあります。
この蔵の酒は全体的にバランスが良く、甘み・酸味・旨味・余韻のキレがすべて穏やかに調和しているという特徴があります。
食卓において、箸を運びながら何杯も重ねられる。それを可能にするのが、この酒の本質だと感じました。
酒単体ではなく、「他の味と共存する柔らかさ」。そこに大きな価値があると思います。
ふとした瞬間に思うこと
日本酒という飲み物は、ワインやウイスキーのように強烈な個性で記憶に残るタイプもあります。
しかし、日本酒としての本質は、しばしばこういう「静かな強さ」にあるのだろうとも思いました。
この酒には、ガツンとしたインパクトはありません。
しかし、食事とともに杯を重ねても決して飽きない。味と余韻のテンポが、食べるリズムに寄り添います。
それは、食べること自体を邪魔しないだけでなく、「次の一口」を自然に誘う酒でもあります。
まとめ — 心の中に静かに残る一杯
今回の八兵衛は、牡蠣という“個性の強い食材”と出会いながらも、料理を引き立て、食事の時間を長く心地よくしてくれました。
特別派手な香りや強い主張こそないけれど、食べることを中心に据えたときの安心感が際立つ酒です。
もしあなたが今後、
- 刺身や魚介料理
- 出汁の風味が豊かな和食
- 冬の食卓でほっとしたいひととき
を考えているのなら、この八兵衛は十分に有力な選択肢になると思います。
参考情報
- 元坂酒造・八兵衛の背景(蔵の理念など)
- 朔旦という酒名の由来と設計(純米大吟醸の特徴)
- 八兵衛シリーズのバランス設計(全体の味わい傾向)
