はじめに
ー記憶の一杯をもう一度ー
箱根や熱海、伊豆へ向かうとき、ふと立ち寄りたくなるラーメン屋がいくつかあります。

小田原の「らーめん小林屋」は、まさにそんな位置づけの店—行き先のワクワクと旅の気配を帯びた空気の中で、ふっと体の芯を満たしてくれる“ちょうどいい一杯”を出してくれる店です。
今回は、久しぶりに立ち寄ったときの印象を、味わいの細部まで丁寧に書き出しておきます。
旅路の寄り道としての価値
小田原周辺は観光地への分岐点であり、早朝や深夜を問わず行き来する車や人が絶えません。

そういう“移動の中間点”にある店は、いかに短時間で満足させられるかが重要です。小林屋は、香りと味の即効性でそれをかなえてくれます。
ワンオペの忙しい時間帯でも、手際よく、確かな温度の一杯を出してくれる信頼感。学生時代、雇われ塾講師として忙しく動いていた頃の帰路にも、この店のスープが寄り添ってくれたことを思い出すー忙しい日の後の安堵を手のひらで受け止めるような一杯でした。
一杯の見た目(配膳の瞬間)
丼を覗くと、濃いめのブラウンのスープが艶を湛えて揺れています。

表面にはほどよい乳化感と脂の層が見え、香りは豚の旨味と醤油系の香ばしさが重なります。
麺の上には厚めのバラチャーシュー、たっぷりの白ネギまたは刻み葱、そして半熟の味玉が乗っており、具材だけでも満足感を与えてくれるボリューム感です。
スープの印象(味の細部)
スープは「がつん」と来るタイプの濃厚さではなく、複数の旨味層がゆっくり口内でほどけていくような複雑さがあります。
動物系の出汁の厚みが核となっていて、醤油や味噌系のタレが程よく存在感を出し、後味はしっかり残るのに重たすぎない—旅の前後でも胃に優しく収まるバランス感覚です。
特徴的なのは、「途中で加える味変アイテム」がよく効く構造になっている点。

テーブルに常備されている辛味を、スープの半分ほどいただいたところで溶かし入れると、アクセントが付いて味が引き締まり、後半の満足感がぐっと増します。
塩味と辛味が、スープの甘みやコクを締め上げ、麺との相性も高めてくれる。辛味を加える前と後で、同じ一杯が二度楽しめるような感覚になるのが嬉しいポイントです。
麺と具材の組み立て
- 麺:中太〜中細のストレートに近い縮れ麺。スープの絡みが良く、噛みしめると小麦の香りがふわりと立つタイプ。ゆで加減「普通」でちょうどよく、食べ進めるほどにスープが麺に馴染んでいきます。
- チャーシュー:写真のように厚切りで、脂の甘さとしっかりした肉の旨味が感じられるバラ肉。噛みしめるごとにスープの旨味と重なります。
- 味玉:黄身はほどよく半熟で、卵のコクがスープの塩味とよく合います。
- ネギ:たっぷりの白ネギはシャキッと辛みがあり、濃厚なスープをリフレッシュしてくれる役割を果たします。
これらの具材が「濃いスープ」「麺」の輪郭をくっきりさせ、単調にならない食べ進めを演出してくれます。
ライスとの相性(おすすめの食べ方)
小林屋でぜひ試してほしいのが「ライス合わせ」。
スープを少し残してライスを入れる、あるいは辛味を溶かしたスープでライスをかきこむと、ラーメンの余韻を余すところなく楽しめます。
特にチャーシューの脂や辛味の旨味がごはんに乗ると、満足度はかなり高まります。旅の途中でガッツリいきたいときは、ライスとラーメンのセットをぜひ。
食べ方の小さなコツ
- まずはそのまま一口:スープ本来のバランスを感じるため。
- 麺と具を交互に:麺がスープを運び、具でアクセントをつける。
- 中盤で辛味を追加:味のコントラストをつけると最後まで飽きない。
- 残ったスープにライス投入(またはごはんをスープで少しずつ食べる):締めの満足感アップ。
このリズムを守ると、最初から最後まで満足できるはずです。
店の雰囲気と利用シーン
- 出発前:旅の期待を高める「朝の一杯」として。
- 帰路:疲れた体をやさしく受け止める「癒しの一杯」。
- 家族や友人と:シェアしながら楽しめるボリュームと安定感。
スタッフは手際よく、回転も良いので、急いでいるときでも安心して立ち寄れます。

シーズンは混雑することがあるため、時間に余裕を持って訪れるのがおすすめです。
総評
らーめん小林屋の一杯は「旅の相棒」にふさわしい、程よい濃さと親しみやすさを併せ持った味わいです。
豚や鶏の旨味がきちんと押し出されたスープ、麺との調和、途中からの辛味による味変パートの楽しさ―どれも“また来よう”と思わせる要素ばかり。
箱根や熱海、伊豆方面へ向かう際は、立ち寄り候補に入れておいて損はありません。
ちょっとした個人的な思い出メモ
雇われ塾講師だった頃、深夜の帰宅前に食べたこの店の一杯は、当時の疲労や達成感、ちょっとした寂しさと一緒にあったように思います。
その時と味は変わらず、けれど自分の立場や周囲の景色は変わっていて、その“変わり具合”を確認するのも再訪の楽しみのひとつでした。