はじめに
英語を教える仕事というのは、頭を使うだけでなく、感情の整理や言葉の調律のような作業も必要とされる場面が多々あります。
思春期の生徒と向き合い、読解と文法の隙間にある「伝える力」を育てようとすれば、自分自身の内側がどこかでととのっていなければならない。そんなふうに考えることが、年々増えてまいりました。
そこで登場するのが、「サウナ」という時間なのです。
サウナ前に湯船でひと呼吸
いきなりサウナに飛び込むのではなく、まずは入浴から始めるのが私の習慣です。目安はおよそ10分ほど。時間は短すぎず、長すぎず。これくらいが身体を無理なく温めるにはちょうど良いと感じています。
もし施設に炭酸泉があれば、迷わずそこに。微細な泡に包まれながらぬるめのお湯に浸かることで、緊張していた毛細血管がじんわりと開き、脈拍も緩やかに整っていくのがわかります。この「ほぐれる」という感覚は、後のサウナ時間をより豊かにしてくれる、まさに静かな準備運動です。
サウナの流儀:8分を3セット
サウナ自体は、1回8分程度を3セットというのが自分の基本スタイル。時計を見てきっちりというよりは、「そろそろかな」と自然に出たくなるあたりで退室します。無理に汗を出そうとは思わず、じわじわと身体の内側から熱が立ち上ってくるのを待つようにしています。
一度目の発汗では、身体がまだ本気になっていないことが多く、二度目、三度目と重ねていくうちに、徐々に皮膚が“汗をかく準備”を始める感覚があります。そのプロセスこそが、サウナの奥深さであり、ただの汗かき場ではないことを実感させてくれます。
外気浴は短めに——夏が好きな理由
汗をかいたあとは、水風呂へ。
温冷交代浴というものの醍醐味はここにあります。15〜18℃前後の冷水に肩まで沈み込むと、手足が一瞬縮こまるような感覚になりながら、次第に深いリラックスへと誘われていきます。
そして、外気浴。
椅子に腰かけて、ゆるく目を閉じ、深呼吸をする。これだけなのに、脳の深部にあるノイズのようなものが、一つひとつ消えていく感覚になります。私はこの外気浴の時間を長く取りすぎないのが好みで、だいたい2〜3分ほどがちょうどいい塩梅です。
そして、季節で言えば、夏のサウナが好きです。
汗をかいても嫌じゃない。外気浴で感じる風のぬるさが、むしろ心地よい。寒い時期の「キンと冷える感覚」も悪くありませんが、夏のだるさを“整う”で吹き飛ばすあの感覚は、他の季節では得られません。
湯上がりの爽快感と、一本の飲みもの
風呂上がりの一杯。それがサウナの“締め”のような存在です。その日の体調や予定によって飲み物は変えますが、好んで選ぶのは次のようなラインナップです:
- デカビタC:濃厚な甘さと微炭酸。どこか“昭和の元気”を感じる一本
- マッチ:レモン風味で後味が爽やか。水分補給にも向いています
- マウンテンデュー:舌に残るあの強めの甘さが、なぜか癖になります
どれも炭酸系で、シュワッと喉に走る感じがたまりません。体内の熱が抜けていくような解放感を、もう一段階引き上げてくれます。
もちろん、飲めるタイミングであればビール。
銭湯での瓶ビール、温泉施設での生ビール、どれも甲乙つけがたいですが、「ひと仕事終えたあとの一杯」として、サウナ後のビールは格別です。
サウナがくれる“整う”という感覚
英語講師という仕事は、常に言葉と向き合う職業です。
文法の構造、音の響き、ニュアンスの違い。それらを整理し、生徒と分かち合うためには、自分自身の「思考の棚」が整っていないと、うまく伝えられないことも多い。
サウナは、その棚を整理してくれる空間でもあります。
余分な情報が汗とともに抜けていき、頭の中に静かな余白が生まれる。身体が軽くなるのと同時に、発想も、声の出し方も、なぜか前よりスムーズになる気がするのです。
おわりに
サウナに通う理由を訊かれたら、たぶん私はこう答えるでしょう。
「気持ちいいからです。でも、それ以上に、“考えるための余白”をもらっている気がするからです」と。
忙しい毎日のなかで、じっとして汗をかき、冷たい水に浸かり、少しだけ空を見上げる。そんな時間が、言葉を教える私にとって、実はとても大切なメンテナンスなのです。
サウナという習慣が、誰かにとっての「整える時間」になることを願って。
また今日も、風呂桶とタオルを片手に、静かな熱を求めていこうと思います。