はじめに
9月20日。夕暮れの土肥温泉。
チェックインを終え、温泉に3回入り、海を眺めながらビールと日本酒を飲んで、すっかり気持ちがほぐれた頃。
ちょうど夕食の時間となりました。
伊東園らしいバイキングの魅力
伊東園ホテルといえば、やはりこのスタイル。

広々とした食事会場に並ぶ料理の数々。
















寿司、刺身、揚げ物、煮物、サラダなど、和風はもちろん、洋風、中華まで多種多様。
夕食の追加レポート ― 土肥の味、伊豆の香り
伊東園ホテルの夕食は、ただ「たくさん並んでいる」だけではありません。それぞれに小さな物語があり、地元の食材や調理法へのこだわりが見える。
今回はその中から、印象に残った4品を、少し掘り下げて紹介してみたいと思います。
ローストポーク ― 柔らかく、香ばしく、ハイボールにも合う一皿
まずはローストポーク。

見た目はややシンプルながら、切り分けられた肉の断面が美しい。脂の層は薄く、肉の旨みがしっとりと滲み出ている。
味付けは控えめで、塩と胡椒をベースに、軽くレモンの香り。ソースを少し添えると、旨みが引き立ちます。口に運ぶと、外側の香ばしさと、中心部のしっとり感のバランスが見事。
これがバイキングで味わえるとは思えないほどの仕上がりです。
ビールにも合いますが、ここではぜひハイボールを。
肉の香ばしさとウイスキーソーダの爽快さが重なり、思わずもう一杯と手が伸びてしまう。
食事の中盤で選びたい“メインディッシュ的存在”でした。
かれいの南蛮漬け ― 酸味と旨みの絶妙な調和
続いて、かれいの南蛮漬け。

この一品が想像以上に良かった。衣をまとったかれいを軽く揚げ、そこに玉ねぎ。
甘酸っぱいタレが全体に絡んでいて、見た目にも鮮やかです。
口に入れた瞬間、かれいの柔らかい身と、野菜のシャキッとした食感。酸味がほどよく、まろやかさもあって食べやすい。冷製で提供されるため、食中の箸休めにもぴったり。
ビールを飲みながら、脂っこい料理の合間にこの一口を挟むと、口の中がすっとリセットされるような感覚になります。
南蛮漬けというと家庭料理の印象が強いですが、ここでは旅館らしい味わいにまとめられていました。
こうした“主張しすぎない脇役”があると、全体の満足度が一段上がるのです。
いけんだ煮味噌 ― 郷土の味をそのままに
そして今回、もっとも印象に残ったのが「いけんだ煮味噌」。

これは静岡県西伊豆・田子(たご)地区の郷土料理で、「いけんだ」とは「田子の入り江」を指す地名。その地域で漁師たちが、捕れた魚や野菜を味噌で煮込んで食べたのが始まりと言われています。
見た目は素朴ですが、味は深い。
味噌の香りが立ちのぼり、具材には魚の切り身、こんにゃく、豆腐、季節の野菜など。
出汁の旨みと味噌のコクが絡み合い、まるで海と陸の恵みが一つになったような味わい。ほっとする温かさがあり、どこか懐かしい。
白ご飯にも合うし、日本酒にもぴったり。
今回は地酒コーナーで「つう」を合わせてみましたが、これが驚くほどよく合いました。
味噌の塩味を酒のやわらかい旨みが包み込み、あとから穏やかな余韻が残る。地元の料理と地酒の相性とは、まさにこのことだと感じます。
海鮮漬け(マグロ) ― 駿河湾の恵みをシンプルに
最後に、海鮮漬け。特にマグロが印象的でした。

表面は軽く漬けダレに染まり、つやのある赤身が食欲をそそります。
醤油ベースのタレには、ほんのりとゴマ油と生姜の風味。しっかり味が染みているのに、マグロ本来の旨みが損なわれていません。
温かいご飯の上にのせて“即席漬け丼”にしても美味しい。日本酒や焼酎にも合う万能な一品でした。
このあたり、静岡のバイキングは本当にレベルが高いと感じます。海が近いという立地だけでなく、仕入れのセンスも良い。素材を活かす加減が絶妙で、つい何度もおかわりしてしまいました。
まとめ ― “地元の味”を感じるバイキング
上記4点が今回の個人的お気に入り。
伊東園ホテルというと、価格の手頃さばかりが注目されがちですが、実際に食べてみると、しっかり「地のものを活かそう」という意識が感じられます。
ローストポークやかれいの南蛮漬けのような万人向けの定番の中に、いけんだ煮味噌や海鮮漬けのような郷土色が混ざることで、食事の中に“土地の記憶”が残る。
旅先で味わう食事とは、そうした小さな出会いの積み重ねなのだと改めて感じました。
今回出てきた料理は全てどこか懐かしく、それでいて旅先の特別感を感じるバイキング。味付けは全体的に優しく、誰にでも食べやすい。子ども連れの家族が多い理由もよく分かります。
飲み放題という幸福
そして、嬉しいのは飲み放題が無料でついてくること。






生ビール、ハイボール、焼酎、サワー、日本酒と、一通り揃っています。


もちろん、ソフトドリンクもあります。

食事をしながらゆっくりと、3杯、4杯と重ねていくうちに、海辺の夜がじんわりと深まっていきました。旅の疲れが一気に和らぎます。

飲み放題コーナーの端には冷えた日本酒の一升瓶が並び、その中から伊豆の地酒「あらばしり」を見つけました。ほどよい酸と米の旨み。冷酒でいただくとすっと喉を通り、料理との相性も抜群のお気に入り日本酒です。
デザートと締めの一杯
食後はデザートコーナーへ。



ケーキやフルーツに子どもたちが列を作っていました。1歳の娘はまだ食べられませんが、そんな光景を見ているだけでなんだか温かい気持ちになります。

こうして、食後の一杯をゆっくりと味わいながら、温泉旅館の夜は進んでいきます。
食後の時間 ― 広縁で海を眺めながら
部屋に戻ると、まずは広縁に腰を下ろしました。
窓の外には、夜の海。波音がかすかに届く静かな時間。
部屋の照明を落とし、缶ビールを一本開ける。
温泉に入って、飲んで、海を見て、また温泉に入る。
これを夕食後に、もう二度ほど繰り返していました。
この「同じことを何度も繰り返す」贅沢こそ、伊東園ホテルの楽しみ方だと思います。派手さはないけれど、日常から少し離れて、時間がゆっくり流れていく。
そんな感覚を、広縁の静けさの中で味わっていました。
夜の出来事 ― 停電、そして静寂
23時30分ごろ。外の景色が真っ暗になりました。
部屋の照明を落としていたので、気がつきにくかったのですが、部屋の照明で見えているはずのプールが見えない。
どうやら停電の様子。
ホテル全体、そして周囲の施設も同時に暗闇に包まれたようで、窓から見える土肥の海岸線も、完全な闇に沈んでいました。
その瞬間、廊下からざわめきが聞こえます。


普段であれば、このように明るく照らされた廊下は真っ暗な状態。
フロント前にはスタッフが集まり、非常灯だけが淡く灯る。どこか非日常的な空気。
妻(取締役)はそのとき、なんと温泉に入っており、「真っ暗で怖かった」とあとで笑って話していましたが、実際に浴場は真っ暗。一緒に入っていた人と一緒に、ロビーまで帰ってきたとのこと。
フロントの方からライトを持った係員が巡回し、「大丈夫ですか?」「ご不便おかけします」と一言ずつ声をかけていたのが印象的でした。
こういうときこそ、宿の人たちの落ち着いた対応に安心させられます。
慌てる人も少なく、静かに状況を見守る宿泊客が多かったのが印象的でした。
エレベーターのトラブルと、30分後の復旧
少しして、「エレベーターに人が閉じ込められてしまった」という声が聞こえました。フロント横のエレベーターは停止中で、スタッフが数名で確認していました。
しばらくして救助が行われ、閉じ込められた方は無事に出られたとのこと。
停電は約30分で復旧。
「復旧いたしました。ご不便をおかけいたしました」とのアナウンスが流れると、どっと安堵の空気が広がりました。
部屋に明かりが戻ると、広縁の外に再び夜の海。さっきまで闇に沈んでいた景色が、光を取り戻すようにゆっくりと浮かび上がってきます。
暗闇の時間があったからこそ、この光がより温かく感じられました。
夜の終わりに
停電という予期せぬ出来事もありましたが、結果的には忘れがたい一夜となりました。
温泉、食事、そして静かな時間。伊東園らしい安心感の中に、ほんの少しの非日常が混ざり合う夜。
その対比が、旅というものの本質を思い出させてくれます。
翌朝は、明るいテラスでの朝食。朝の海と、湯けむりと、光。
その話はまた、次の記事で。