肝臓を助ける“食べ方”の知恵⑤

肝臓を助ける“食べ方”の知恵⑤

はじめに

お酒をたしなむ方にとって、肝臓はまさに“沈黙の相棒”です。

何も言わず、何も訴えず、ただひたすらにアルコールを分解し、体を守り続けてくれる。

しかし、私たちはその沈黙をいいことに、つい過信してしまいます。

今回は、そんな肝臓をいたわりながら、翌朝のダメージを減らす“食べ方”について考えてまいります。

アルコール分解は「食べたか・食べなかったか」で決まる

アルコールが体に入ると、まず肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)が働き、それをアセトアルデヒドという物質に変えます。

このアセトアルデヒドこそが、頭痛や吐き気、倦怠感といった二日酔いの原因。

そして最終的に「酢酸」へ分解されて体外に排出されるまでの間に、肝臓は大量のエネルギーを消費します。

ここで大切なのが、飲酒前後の食事です。

空腹状態では血糖値が下がりやすく、肝臓がアルコールの分解に集中しすぎて、グリコーゲン(肝臓内のエネルギー貯蔵)が枯渇しやすくなります。

その結果、翌朝に感じる「異常なだるさ」や「冷え感」は、実は低血糖状態によるもの。

つまり、“飲む前に何かを食べる”という行為は、単なる予防策ではなく、肝臓に「燃料を補給しておく」行為なのです。

飲む前におすすめの“肝臓食”

肝臓がアルコールを分解するためには、以下が欠かせません。

たんぱく質(特にシステインを含むもの)
ビタミンB群
糖質

そのため、飲む前の軽い食事には、次のようなものが理想的です。

  • 冷奴+ごはん少々:大豆のたんぱく質とビタミンB群が肝臓をサポート。
  • 卵かけご飯:卵のシステインがアセトアルデヒド分解を助けます。
  • 味噌汁+おにぎり:塩分・糖分・ミネラルを同時に摂取できる“黄金コンビ”。

また、飲酒前に牛乳を一杯飲むのも理にかなっています。

諸説ありますが、脂肪分が胃壁をやさしくコーティングし、アルコールの吸収をゆるやかにしてくれるのです。

飲みながら意識したい“中盤の工夫”

飲みの最中こそ、実は肝臓を守る最大のチャンスでもあります。

アルコール代謝には時間がかかりますから、飲みながら「少しずつ栄養を補う」ことが効果的です。

おすすめは、以下のもの。

  • 枝豆(ビタミンB1・メチオニン)
  • 冷やしトマト(カリウム・リコピン)
  • 鶏の塩焼き(たんぱく質)
  • 味噌きゅうり(塩分+発酵食品)

これらはすべて、分解を助け、電解質のバランスを整える食材。飲み放題の場でも、このあたりを意識するだけで翌朝の調子がまるで違ってきます。

翌朝のリカバリー食は“やさしい糖質+スープ”

翌朝、体が重い・頭がぼんやりするというときは、肝臓がまだグリコーゲンを十分に回復できていない証拠です。

そんな時は、無理に固形物を詰め込まず、まずは温かい味噌汁お粥を。ゆっくりと糖分が吸収されることで、肝臓が再び働き出します。

さらに理想的なのは、以下のもの。

  • しじみ汁:オルニチンが肝臓のアンモニア処理を助ける
  • 卵スープ:良質なたんぱく質で分解酵素を補う
  • 梅干し入り湯:胃を刺激せず、塩分とクエン酸を同時補給

このあたりを組み合わせると、まるで“体の奥がゆるやかに再起動する”ような感覚を味わえます。

「飲む」と「整える」は、ひとつの習慣

肝臓は“鍛える”よりも“守る”臓器です。

トレーニングのように強化するものではなく、小さなケアを重ねて、本来の機能を保つもの。

だからこそ、飲み方や食べ方の工夫こそが、最良の「肝臓トレーニング」なのです。

お酒を楽しみながら、自分の体と対話する―そんな意識を持つだけで、二日酔いの質も、翌朝の気分も大きく変わります。

最後に

五回にわたってお届けした「二日酔いを科学する」シリーズ。最後にたどり着いたのは、結局とてもシンプルな真理でした。

“体をいたわることは、飲むことを深く味わうことでもある”

お酒をただ楽しむのではなく、身体の声を聴きながら「飲む」「整える」「生きる」を丁寧に重ねていく。

その先に、きっと健やかな酔いの世界が広がっているのだと思います。

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