飲む前の「一杯の水」が体を守る②

飲む前の「一杯の水」が体を守る②

はじめに

夜の予定が入る日ほど、昼のうちから心の準備をしている自分がいます。

「今日はしっかり飲むだろうな」と思う日は、食事の内容を軽くし、できるだけ体を動かしておく。

その延長にあるのが、飲む前の一杯の水です。

「プリウォーター」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。飲酒前にあらかじめ水を飲んでおくことで、翌日の二日酔いを防ぐという考え方です。

この方法、半信半疑のまま試してみたのですが─結果は明らかでした。

飲む前の習慣としての「水」

その夜は、久しぶりに旧友たちと集まる日でした。

乾杯のビール、続いてワイン、最後に日本酒。楽しい予感がする夜ほど、つい気が緩み、量が増えるものです。

出発の30分前、私は常温の水を500ミリリットルほど、ゆっくりと飲みました。

一気に飲まず、10分ほどかけて。胃の中に水が広がる感覚を確かめながら、呼吸を整えるように。

飲酒の前に水を飲むことで、胃の粘膜が一層に覆われ、アルコールの吸収がゆるやかになります。また、水分が血中に行き渡ることで、アルコール濃度の上昇が穏やかになる。

つまり、最初の一口から「急激に酔わない状態」をつくれるのです。

当日の流れと翌朝の違い

この日も、飲みの内容はいつもと変わりませんでした。

ビールを中ジョッキで2杯、白ワインをグラスで3杯、日本酒を2合。食事は洋風のおつまみ中心で、油分もそれなりにありました。

しかし、翌朝の体は驚くほど軽かったのです。

普段なら、夜中に喉が渇いて目が覚めることがあります。けれどもこの日は、一度も起きずに6時間の睡眠。起床時も頭の重さがなく、胃の違和感もない。

一番はっきり感じたのは、「体の中にまだ潤いが残っている」感覚でした。まるで、水が体内のクッションのように働いて、アルコールの刺激を和らげてくれていたかのようです。

科学的に見たプリウォーターの意味

アルコールが体内に入ると、胃や小腸から吸収されて血液中に入ります。このとき胃が空っぽだと、アルコールの吸収が一気に進みます。

一方、食べ物や水分があると、吸収が緩やかになり、血中アルコール濃度の上昇カーブがなだらかになります。

これが「プリウォーター」の最大の効果です。

体が「緩衝材」を持った状態で飲み始めるため、アルコールが肝臓に届くスピードが緩やかになる。結果として、アセトアルデヒド(悪酔いの原因物質)の濃度も急上昇せず、二日酔いが軽くなる。

また、飲酒前に体をしっかり潤しておくことで、利尿作用による脱水の影響も抑えられます。これは、夜中に喉が渇いて目が覚める「二日酔い特有の渇き感」を防ぐうえで、非常に効果的です。

ちょっとした工夫のコツ

プリウォーターは、「どれくらい」「いつ」飲むかがポイントです。

  • :コップ2杯(約400〜500ミリリットル)が目安。
  • 温度:冷たすぎず、常温かややぬるめが理想。
  • タイミング:飲み始める30分前までに飲み終える。

あまり直前に一気飲みしてしまうと、胃の中でチャプチャプして不快になりやすいです。水を体にゆっくり馴染ませることを意識すると、より効果が高まります。

「酔わない夜」ではなく「後悔しない朝」をつくる

プリウォーターを続けていると、飲み方そのものが穏やかになります。

最初の乾杯から、体が「受け入れ準備」を整えている感覚がある。お酒の味をより繊細に感じられるようにもなります。

面白いのは、「もう少し飲みたい」と思う場面でも、どこか冷静でいられることです。体が落ち着いていると、心まで安定する。

水というのは、単に体を潤すだけでなく、「酔いの波を静かに整える道具」なのだと感じます。

次回予告

次回は、「飲みながらの水」─つまり、お酒と水を交互に飲む「チェイサー」の意味を掘り下げます。

昔から言われる“水割り文化”には、ちゃんとした生理的根拠があるのか。

また、どういうタイミングで飲むと効果的なのか。

お酒の夜を楽しみながら、翌朝を美しく迎えるための知恵を、もう少し科学の目で見つめてみようと思います。

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