【Roost】黒板に書かれた「今日」の味を分かち合う午後

【Roost】黒板に書かれた「今日」の味を分かち合う午後

はじめに

9月7日、日曜日。

3回目のブログ記事を書くために秦野のRoostへ、友人家族と一緒に伺いました。

日替わり一本勝負という店の性格は変わらず、黒板に書かれた本日のAセット・Bセットを見て、自然と「じゃあ両方を」と合意が取れるのがこの店の愉しさです。

前回(第2回)の訪問記と同じく、料理の順序・副菜の役割・滞在の流れに注目して、今回は副菜群の細かい分析も交えながら丁寧に記録してまいります。

本日の概要と注文

  • 訪問日:2025年9月7日(日)
  • 同行:友人家族
  • 本日のオーダー:Aセット(写真の一皿)・Bセット(カレー)、副菜群
  • 価格帯:Roostの日替わりメニューは以前と同様に各1,000円で提供

(※お店は日替わり一本勝負のため、同一メニューの再現性は低いものの、「その日」の一皿で作る味の物語が魅力です。)

まず皿を眺める─構成と第一印象

Aセットの皿全景。副菜のバリエーションが一皿で味のリズムを作る。

写真のAセットは、中心にオクラと挽肉の組み合わせ(肉そぼろ的な調理)が小鉢で配され、その周囲を複数の副菜が取り囲む構成でした。副菜は下記の要素で成り立っています。

  • 左上:ゴーヤと卵の和え物(ゴーヤチャンプルー風のアレンジ)
  • 上部中央:茄子の煮浸し(油と出汁のバランス良好)
  • 上部右:小鉢に入ったポテトサラダ(クリーミー)
  • 右側:緑色の葉物の和え物(ぬめりある葉野菜、つるむらさき系)
  • 右下:きゅうりの漬物(シャキッとした酸味)
  • 中央小鉢:オクラと肉そぼろ(主菜的な位置づけ)

第一印象は「一皿で食事のリズムを作る構成」。中心のタンパク(そぼろ)を核に、苦味・酸味・塩気・クリーム感・ぬめりのある青菜が順に視覚的にも味覚的にも配されており、箸の運び方が自然と設計されているのが面白いです。

オクラの肉そぼろ(中央)。主菜としての満足感と、副菜との掛け合わせで化学反応が起きる。

副菜一つ一つの役割と味の設計(分析)

以下は写真を元にした、各副菜の味設計と皿全体での機能的な位置づけです。

  1. ゴーヤと卵の和え物(左上)
    • 食感:ゴーヤの軽いほろ苦さと、卵のふんわりした舌触りの対比。
    • 役割:序盤に口を引き締めつつ、ビターが後続の肉の脂を受け止める“導入役”。味は濃くしすぎず、後で来る濃厚なカレーやそぼろとぶつからない。
  2. 茄子の煮浸し(上中央)
    • 食感:油を含んだしっとりさ。
    • 役割:温度と油分で“満足感の蓄積”に寄与。そぼろの肉汁と合わさると旨味が重なりやすい。塩分は控えめで、出汁で伸ばすタイプ。
  3. ポテトサラダ(小鉢)
    • 食感:クリーミーで冷たいアクセント。
    • 役割:舌をリセットする“冷たい休止所”。熱い皿が続く時に、クールダウンさせて次の一口を促す。子供にも受けが良い。
  4. ぬめりのある青菜(右側)
    • 食感:ぬめりと若干の粘り、歯ごたえは軽め。
    • 役割:ミネラル感や舌触りの変化を与え、全体の“和”のニュアンスを補完する。別の皿の強い味を受け止めるバッファにもなる。
  5. きゅうりの漬物(右下)
    • 食感:シャキッとした歯切れ、爽やかな酸味。
    • 役割:脂や塩味の“切り札”。味が濃くなった瞬間にさっと挟むと、食べ疲れを防ぐ。

こうして見ると、副菜群は「主菜を引き立てるための句読点」として非常に良く構成されており、単体で楽しんでも、主菜と組合せても成立するように塩梅されています。

Aセット(オクラと肉そぼろ)の詳細感想

中心の小鉢は、オクラの粘りと挽肉の旨味で満足度を出す「家庭的な一皿」。調理は油で炒めたそぼろを醤油ベースで整え、オクラと軽く合わせた印象です。香りは甘辛よりも“旨味先行”のバランスで、米やパンどちらにも寄せられる懐の広さがあります。

  • 食感:オクラの軽い粘りとそぼろのほろほろ感。
  • 味の方向性:醤油の旨味+甘味の少ない調味。スパイスは控えめで出汁感が下支え。
  • 合わせ方:副菜の茄子やポテトサラダと交互に口に運ぶと、味わいの高低差で飽きずに食べられます。

この組み立ては、Roostの“日替わり”らしい「家庭の延長線上にあるプロの一皿」という空気を端的に示していました。

Bセット(カレー)とスープの相性

Bセットのカレー。酸味系スープとスパイスのある煮込みの二面性。

写真にある2つの小鉢のうち、上はトマトベースのスープ、下はチキン系のカレー(ややサラッとしたココナッツ/スパイス寄り)と思われます。ここでは両者の相互作用と、Aセットとの掛け合わせを論じます。

  • トマトベース:酸味と軽い塩気で口中をリフレッシュする役割。Aセットの油分やそぼろの旨味をリセットし、次に来るカレーをより鮮烈に感じさせる“前菜的スープ”。
  • チキン系カレー:チキンのほぐれた繊維が見える煮込みで、スパイスは強すぎず香りが中心。ココナッツミルク的な丸みが少しあるため、辛さよりも香りの層で満足させるタイプです。

食べ方の提案

  1. トマトスープで軽く口を整える → 2. カレーを一口、Aセットのオクラそぼろで中和 → 3. 茄子やぬめり青菜で“舌の角”を取る → 4. ポテトサラダでクールダウン。
    この循環を作ると、3皿でも胃がだれてこず、最後まで風味の違いを愉しめます。

この日の日本酒

この日に選んだのは3種。鼎(かなえ)純米大吟醸を2杯、鼎のおりがらみを2杯、そして最後に「まるいし」を1杯。

鼎の純米大吟醸は、澄んだ旨みと綺麗な余韻が印象的。飲み口は柔らかいのに、喉を過ぎてから広がる香りは華やかで力強い。続けて選んだおりがらみは、にごり特有のまろやかさと米の甘みが前面に出て、純米大吟醸とはまた違う表情を見せてくれました。味わいの層が重なり、飲み比べることで鼎という蔵の奥行きを実感。

そして最後にいただいた「まるいし 生酛純米 生原酒」。「二兎」が有名な酒蔵です。

愛知県岡崎市で造られている酒。偶然ではありますが、私にとって岡崎は特別な土地。かつて駆け出しの塾講師として働いた街であり、私の原点のひとつとも言える場所。そんな縁のある土地の酒を飲めることに、思わず心が温かくなりました。

「まるいし」は、口に含むとしっかりとした酸が立ち、米の旨味を下支えしています。生酛らしい骨太さを持ちながらも、不思議と角が取れていて、するりと喉を。アルコール度数は14%とやや低めで、生原酒ながら飲み疲れしないのが良く、まさに、「丸くてやわらかく、深く続く」という表現がぴたりと当てはまる一本でした。

この日の日本酒代は合計2,500円。料理も含めた合計は4,500円。適度に酔い、そして少しだけ感傷を伴った、良い昼となりました。

空間と滞在の手触り

今回も2階の小上がりでの滞在でした。

靴を脱いでゆったり座ることで、子どもたちが遊ぶ声と、親同士の会話が自然と混じり合い、時間の経ち方がやさしくなります。Roostは、料理そのものだけでなく「滞在の居心地」まで含めて味わいの一部にしている点が再訪しても分かるのが魅力です。

前回と同様の設えで、落ち着いて写真撮影やメモを取ることができました。

総合所感(まとめ)

  • 副菜の設計が秀逸:一皿で味のリズム(導入→蓄積→リセット→整え)を作る構成は、家庭料理的な親しみと店ならではの整合性を両立しています。
  • Aセットは“ご飯が進む”系の実直な一皿:肉そぼろとオクラの組み合わせは飽きが来ず、子連れの食事にも向いています。
  • Bセットのカレーは香り重視で後半勝負:トマトスープを含めた二段構えで食べると満足度が上がる。
  • 滞在性が高い:2階の座敷でのんびり過ごせる点は、家族連れで来る価値をさらに高めています。

Roostの「日替わり1択」の哲学は、毎回“違う物語”を用意してくれます。この日の皿もまた、その日の空気や食材で丁寧に組み立てられた一場面であり、写真とテキストに残すことで次の再訪の楽しみになります。

自分用メモ(業務記録)

  • 日時: 2025年9月7日(日)12:00〜14:30
  • 場所: Roost(秦野市)2階席利用
  • 参加者: 代表取締役(私)、取締役(妻)、娘(1歳)、友人家族
  • 注文・構成:
    • Aセット:オクラと挽肉の小鉢+副菜群(ゴーヤ卵和え、茄子の煮浸し、ポテトサラダ、ぬめり系青菜、きゅうりの漬物)
    • Bセット:カレー(チキン入りのスパイス煮込み)+トマトスープ
    • 日本酒:鼎 純米大吟醸×2、鼎 おりがらみ×2、まるいし 生酛純米 生原酒×1
    • 総額:4,500円
  • 感想・観察ポイント:
    • 副菜は塩分控えめで味の振幅が小さく、酒にも合わせやすい。
    • Aセット中心の取り回しで、子ども(1歳)への取り分けがしやすい構成。ポテトサラダは安定のフォロー。
    • 次回課題:①各セットの正確な価格確認、②ドリンク(日本酒)とのペアリングテスト、③副菜のうち「ぬめり青菜」の正体確認(素材名・調味法)を行う。
  • 次回企画案: 2階滞在記(子連れ視点)+「黒板メニューの再現性」短期観察(同一メニューが何日連続で出るかの記録)。

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