はじめに
夜の予定が入る日ほど、昼のうちから心の準備をしている自分がいます。
「今日はしっかり飲むだろうな」と思う日は、食事の内容を軽くし、できるだけ体を動かしておく。
その延長にあるのが、飲む前の一杯の水です。
「プリウォーター」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。飲酒前にあらかじめ水を飲んでおくことで、翌日の二日酔いを防ぐという考え方です。
この方法、半信半疑のまま試してみたのですが─結果は明らかでした。
飲む前の習慣としての「水」
その夜は、久しぶりに旧友たちと集まる日でした。
乾杯のビール、続いてワイン、最後に日本酒。楽しい予感がする夜ほど、つい気が緩み、量が増えるものです。
出発の30分前、私は常温の水を500ミリリットルほど、ゆっくりと飲みました。
一気に飲まず、10分ほどかけて。胃の中に水が広がる感覚を確かめながら、呼吸を整えるように。
飲酒の前に水を飲むことで、胃の粘膜が一層に覆われ、アルコールの吸収がゆるやかになります。また、水分が血中に行き渡ることで、アルコール濃度の上昇が穏やかになる。
つまり、最初の一口から「急激に酔わない状態」をつくれるのです。
当日の流れと翌朝の違い
この日も、飲みの内容はいつもと変わりませんでした。
ビールを中ジョッキで2杯、白ワインをグラスで3杯、日本酒を2合。食事は洋風のおつまみ中心で、油分もそれなりにありました。
しかし、翌朝の体は驚くほど軽かったのです。
普段なら、夜中に喉が渇いて目が覚めることがあります。けれどもこの日は、一度も起きずに6時間の睡眠。起床時も頭の重さがなく、胃の違和感もない。
一番はっきり感じたのは、「体の中にまだ潤いが残っている」感覚でした。まるで、水が体内のクッションのように働いて、アルコールの刺激を和らげてくれていたかのようです。
科学的に見たプリウォーターの意味
アルコールが体内に入ると、胃や小腸から吸収されて血液中に入ります。このとき胃が空っぽだと、アルコールの吸収が一気に進みます。
一方、食べ物や水分があると、吸収が緩やかになり、血中アルコール濃度の上昇カーブがなだらかになります。
これが「プリウォーター」の最大の効果です。
体が「緩衝材」を持った状態で飲み始めるため、アルコールが肝臓に届くスピードが緩やかになる。結果として、アセトアルデヒド(悪酔いの原因物質)の濃度も急上昇せず、二日酔いが軽くなる。
また、飲酒前に体をしっかり潤しておくことで、利尿作用による脱水の影響も抑えられます。これは、夜中に喉が渇いて目が覚める「二日酔い特有の渇き感」を防ぐうえで、非常に効果的です。
ちょっとした工夫のコツ
プリウォーターは、「どれくらい」「いつ」飲むかがポイントです。
- 量:コップ2杯(約400〜500ミリリットル)が目安。
- 温度:冷たすぎず、常温かややぬるめが理想。
- タイミング:飲み始める30分前までに飲み終える。
あまり直前に一気飲みしてしまうと、胃の中でチャプチャプして不快になりやすいです。水を体にゆっくり馴染ませることを意識すると、より効果が高まります。
「酔わない夜」ではなく「後悔しない朝」をつくる
プリウォーターを続けていると、飲み方そのものが穏やかになります。
最初の乾杯から、体が「受け入れ準備」を整えている感覚がある。お酒の味をより繊細に感じられるようにもなります。
面白いのは、「もう少し飲みたい」と思う場面でも、どこか冷静でいられることです。体が落ち着いていると、心まで安定する。
水というのは、単に体を潤すだけでなく、「酔いの波を静かに整える道具」なのだと感じます。
次回予告
次回は、「飲みながらの水」─つまり、お酒と水を交互に飲む「チェイサー」の意味を掘り下げます。
昔から言われる“水割り文化”には、ちゃんとした生理的根拠があるのか。
また、どういうタイミングで飲むと効果的なのか。
お酒の夜を楽しみながら、翌朝を美しく迎えるための知恵を、もう少し科学の目で見つめてみようと思います。