はじめに
プールで身体を動かし、水に包まれて過ごしたあとの静かな時間。アルコールを楽しむ日もあれば、あえてノンアルコールを選び、軽やかに余韻を味わいたい夜もございます。
本稿は、そんな「飲まない」日のための小さな案内編。
喉と心を満たし、翌日にやさしい7種類のノンアルをご紹介しながら、プール後ならではの飲み方や小さなコツを丁寧に綴ってまいります。
1)炭酸水─“強”と“微”で余韻のトーンを選ぶ
まずは王道、炭酸水。
プールで温まった体幹に、細かな泡がすっと触れる瞬間は、もう一度水に潜ったかのような清涼です。
- 強炭酸:泳ぎ切った直後に。呼吸が整っていくテンポと、泡の刺激がリズムよく重なります。最初の一口で「今日のスイッチを切り替える」役割に。
- 微炭酸:クールダウンの仕上げに。胃にやさしく、香りを添える果皮(レモンの薄切り、柚子の皮)とも相性が良いです。
ひと工夫:グラスの内側を一度すすいでから注ぐと泡が落ち着き、舌あたりがやわらぎます。遅い時間は微炭酸のほうが身体に収まりやすいこともございます。
2)ノンアル・ビール─“喉ごしの記憶”をそのままに
「今日は飲まない」と決めた日でも、泡と苦みの作法は手放したくない─そんなときの定番がノンアル・ビールです。
プール後は水音の記憶がまだ身体の内側に残っています。その記憶の上に、冷えた泡がふわりと乗る心地。
- よく冷やす:缶ごと冷蔵庫でしっかり。グラスも数分だけ冷やしておくと泡が長持ちします。
- 注ぎ方:最初に少し高めから注いで泡の“土台”を作り、その後はゆっくり側面に沿わせて。泡の厚みが、満足感を底上げします。
アルコールを入れないぶん、飲む速度を自然に落とせるのが利点。泳ぎで整えた呼吸と、やわらかい苦みがきれいに重なります。
3)スポーツドリンク─電解質の“やさしい架け橋”
汗の量やコンディション次第では、電解質を含む飲料が安心なこともございます。
- そのまま:強度の高い練習や長時間のスイム後、まずはコップ1杯。
- 半分に薄める:軽めのスイムなら、水で割って味を弱めに。甘みを抑え、喉越しが軽くなります。
「まずは一杯の水→スポーツドリンク少量→好みのノンアル」という三段構えにすると、喉の渇きと“味の欲”がケンカしません。甘味が強い日は、塩ひとつまみを添えた水を間に挟むのも良いバランスです。
4)麦茶(温・冷)─香ばしさで“地に足を戻す”
無機質な水の世界から上がってくると、香ばしさのある飲み物が驚くほど落ち着きをくれます。
麦茶はノンカフェインで、冷やしても温めても良し。
- 冷やし麦茶:最初の一杯に。喉をまっさらに整えて、次の飲み物の風味を受け止める“下ごしらえ”の役。
- 温かい麦茶:夜更けの仕上げに。水中でやや冷えた腹部が内側から温まり、睡眠への橋渡しに向きます。
塩少々+氷少なめの“薄塩麦茶”は、汗ばむ季節の細やかな相棒。香ばしさが、プールサイドのコンクリートの熱を思い出させ、現実へ丁寧に帰還させてくれます。
5)甘酒(米麹・ノンアル)─やわらかな“満ちる”感覚
米と麹で仕立てたノンアル甘酒は、アルコールを含まないのに、どこか酒の儀式性を携えています。
- 冷やし甘酒:夏場、少量をゆっくり。とろみが喉を滑り、胃のあたりに“やさしい重力”が生まれます。
- 温めた甘酒:肌寒い日や、クールダウンが足りないと感じる夜に。生姜薄切りを一枚落とすと、香りが立ち、身体がふわりとほどけます。
「満たされるけれど、重すぎない」。泳ぎで削いだ雑味のあとに、静かな余白を少しずつ満たす、そんな位置づけの一杯です。
6)ジンジャーエール(辛口)─泡で“呼吸の芯”を起こす
辛口のジンジャーエールは、喉だけでなく胸の中心を軽く叩いてくれる飲み物です。
生姜の辛味と炭酸が、プール後の深い呼吸と共鳴して、再び呼吸の芯を見つけやすくなります。
- 氷を少なめにして、味わいが薄まらないように。
- レモンの皮をひとかけ搾ると、塩素の余韻がすっと遠のき、香りの層が整います。
夜更けに向かう時間帯でも、鋭すぎない覚醒をくれるのが良いところ。読書や音楽に静かに移行できます。
7)ノンアル・モクテル三景─“作る行為”で心を整える
缶やペットボトルの利便を手放さず、ひと手間だけ加えると、プール後の時間がぐっと愛おしくなります。簡単で失敗しない三景を。
A. モヒート風(ノンアル)
- 炭酸水 150ml/ライム果汁 小さじ2/砂糖 小さじ1/ミントの葉 ひとつかみ/氷
- グラスでミントを軽く押す(叩かない)。ライムと砂糖を混ぜ、氷→炭酸水で満たす。
→ 水中の浮遊感を香りで再現。甘さ控えめにすると、息が深くなります。
B. 塩レモン・スカッシュ
- 微炭酸水 200ml/レモン薄切り 2枚/はちみつ 小さじ1/塩 ひとつまみ/氷
- グラスの縁に塩を少量つけ、はちみつを溶かしてから注ぐ。
→ **電解質の“気づかい”**を、味わいの設計で。甘さは控えめが上品です。
C. ジャスミン・シトラス・ソーダ
- ジャスミン茶(よく冷やす)120ml/炭酸水 80ml/オレンジ皮 少々/氷
- 茶→氷→炭酸→皮を軽くひねって香りを落とす。
→ プールの静けさに、異国の風をほんの少し。遅い時間にもやさしい一杯です。
飲み方の“作法”─おいしさと回復の折り合い
- はじめの一杯は“水”:250〜300mlをゆっくり。喉の渇きと“味の欲”を切り分けると、次の一杯が澄みます。
- 甘さのコントロール:甘味は“満足の速さ”を上げますが、喉の渇きが残ることも。甘い→無糖の順で交互に。
- 氷は少なめ・大きめ:薄まりを防ぎ、最後まで輪郭が崩れません。
- カフェインのタイミング:夜更けは控えめに。麦茶やハーブティーへ切り替えると、眠りに橋が架かります。
- 塩を“味付け”として:汗を多くかいた日は、塩ひとつまみをアレンジで。入れ過ぎは台無しになるので、ほんの気配程度に。
おわりに─“飲まない夜”も、豊かに整う
アルコールを介さずとも、プール後の時間は十分に祝祭でございます。
炭酸の泡で呼吸を整え、香ばしさで地に足を戻し、やわらかな甘みで心を満たす。そして、ときに自ら一杯を拵えることで、自分の調子に寄り添う技が身につきます。
飲む日も、飲まない日も、どちらも美しい。水から上がった身体に、ふさわしい一杯を。
そのささやかな選択が、翌日の軽やかさをそっと支えてくれるはずです。