第五話:手抜きと、こだわりのあいだ ― 泡盛の水割り
時計は、午前一時を回っておりました。食器はすでに片付き、リビングも寝室も、静かに灯りを落としています。
この時間になると、もう何かを始める気力も湧きません。
それでも、今日という日を「終えた」と感じるために、私は台所に立ち、冷凍庫から氷を取り出しました。
作るのは―泡盛の水割り。それは、つくづく「何も考えなくてもできる一杯のカクテル」でした。
手抜きと呼ぶには惜しい理由
グラスに氷を落とし、泡盛を注ぎ、水で割る。
たったそれだけの動作です。ミキシングもステアもなく、レモンもライムも加えず、炭酸の気配すらありません。
けれどこの一杯は、今日という時間と、私という存在に、そっと寄り添ってくれます。
簡単だからこそ、「どうでもよく作らない」という自分なりの境界線が生まれます。
氷はコンビニで買ったロックアイス。水は浄水ポットから、冷えたものを静かに注ぎます。
たったそれだけのことですが、それを“ほんの少しだけ丁寧に”するだけで、「カクテル」となり、味が変わるような気がするのです。
今日もまた、生徒と話した時間のこと
今日は、ある生徒と話していて、こんな言葉が返ってきました。
「やらなきゃいけないことは分かってるんですけど、ちゃんとやるだけの気が起きないんです」
塾の先生をしていれば、幾度となく耳にする言葉です。
けれど、これは責めるべきことではない。大人であっても、私たちも同じだからです。
“ちゃんとやる”ということは、毎回完璧にやるということではなく、ときには「これが限界」と割り切りながらも、そこに誠実さを一滴落とすことなのだと私は思っています。
泡盛の水割りにも、それはよく似ています。
沖縄の風と、深夜の台所
泡盛という酒は、本来もっと陽気な場に似合うものかもしれません。青い空、白い砂浜、にぎやかな笑い声。
けれど、深夜の台所にひとり立っていても、泡盛は、けっして場違いではないのです。
水に溶けていくその香りは、少し苦くて、少し甘くて、まるで「記憶そのもの」を飲んでいるようでもあります。
ほんのわずかな時間だけ、身体と心の力を抜いて、この一杯に頼ってみる―そういう夜があっても、悪くないと思いました。
今夜のレシピと、ささやかな所作
使用材料
- 泡盛(一升瓶) 30〜45ml
- 冷水(浄水ポット) 60〜90ml
- ロックアイス
作り方
- グラスを冷凍庫で冷やしておく
- 氷を静かに入れる
- 泡盛を注ぎ、水をそっと加える
- マドラーで一度だけ、氷の隙間をくぐらせるように混ぜる
※何も加えず、香りを楽しむ。気分で水の比率を調整するのも良いでしょう。
おわりに
「手抜き」と「こだわり」の境界線は、他人に見えるものではなく、自分の内側にだけあるものです。
全力で作る必要はない。けれど、「どうでもいい」と投げ出すには、あまりにも今日という日は長かった。
そんな夜に、静かに飲む泡盛の水割り。この一杯があれば、明日もまた少しだけ丁寧に、生徒と、家族と、自分と向き合えるような気がいたします。