「グラスの向こうに揺れる灯」
―― 夕暮れのワインバーにて、家族と ――
日が長くなってきた初夏のある日。まだ空がうっすらと明るさを残している夕刻、家族三人で駅からほど近いワインバーを訪れました。
住宅街に静かに佇むその店は、控えめな外観ながら、灯りがともると、ふと立ち寄りたくなる温かさがあります。ドアを押すと、店内は柔らかな音楽と静かな空気に包まれておりました。
写真①:店外観(夕暮れと灯り、木製の看板)
私たちは奥のテーブル席へ。娘にはベビーチェアを用意していただき、店主のさりげない気配りに、思わずこちらも自然と背筋が伸びます。
カルバには以前、妻と二人で何度も来たことがありましたが、娘を連れて三人で訪れるのはこれが初めて。店の空気は以前と変わらず、静かに私たちを迎えてくれます。
まずはグラスで白ワインを一杯。ドイツのリースリング。すっきりとした酸味の奥に、やわらかい果実味が広がる、どこか安心感のある味わいでした。
娘は隣でパンを少しずつつまみながら、周囲の雰囲気を感じ取るようにきょろきょろと目を動かしています。生まれて間もない頃から、こうして少しずつ「場の空気」に触れていくことも、きっと何かしらの栄養になるのだろうと、ふと思いました。
写真②:グラスワインと前菜(照明に照らされた木のテーブル)
ツマミには、パテ・ド・カンパーニュとを。素材の味がしっかりと引き出されていて、どの一口にも、手間と誠実さが感じられます。
ワインはもう一杯、今度は赤へ。オーストラリアのカベルネソービニオン。やや冷やし気味で提供されたそれは、軽やかで飲み疲れしない味。こうした繊細な温度管理も、この店の魅力のひとつです。
途中、娘が少しぐずりはじめたとき、妻がさっと抱き上げてあやしてくれました。その様子を眺めながら、グラスの中の残り少ないワインをゆっくりと傾けます。
家族で過ごすこうした時間は、決して華やかではないかもしれません。でも、ゆったりと流れる空気と、少しだけの贅沢――それだけで、心は十分に満たされるものだと感じました。
写真③:妻と娘の後ろ姿(ワインとともに過ごす静かな時間)
最後に、店主がすすめてくれたカルバドスを少し。こちらの店名にもなっているお酒です。娘はすっかり落ち着いて、母の腕の中で微睡んでいます。
「また来てくださいね」と笑顔で送り出してくださる店主に会釈し、私たちは静かに夜の通りへ出ました。
帰り道、娘は眠ったまま。風は涼しく、空にはひとつ、星が見えました。
家族で過ごす、ワインと静かな語らいのある夜。それもまた、私にとっての「夜の思索」なのだと思います。